漢方薬は植物や動物の骨、あるいは鉱物などの自然界の物を原料にし、経験則に基づいて調合された薬の事です。
基本的には、この“調合”によって原料の効果を相乗的に高めたり、主作用に反する効果を打ち消し合ったりする事で、目的に沿った効能が得られるように研究され発展してきました。
いわゆる、風邪を引いた時には生姜湯を飲むというような、生薬を単独で用いたり、効果が検証されていない民間療法とは別なものです。
また、現代においても古くからの漢方薬を参考にしながら、常に新しい漢方薬の研究がされており、必ずしも「昔ながら」の物だけではありません。
その漢方薬が、中医学として日本に入ってきたのは、戦国時代の頃だったと云われています。
漢方薬の古いテキストとしては『傷寒論(しょうかんろん)』が有名で、葛根湯(かっこんとう)などが掲載されており、現在においても度々参照されたりしています。
この『傷寒論』には論理的な事柄よりも、どの症状にどんな漢方薬が適応するかという書き方がされていて、それを便利だと思ったのかどうか日本に伝わるとさらに取捨選択されて『万病一毒説』や『気血水論』という本が編纂されました。これを『古方(こほう)』と呼びます。
これが日本漢方の基礎ともなるものですが、陰陽五行説などの理論を大事にする中医学の支持者からは、『古方』は理論が乏しいと忌諱されていたりします。
しかし中国の気候風土からすると乾燥に対しての理論は優れているが、日本は湿度が高いので水の代謝に関する理論には乏しいという考え方もあり、日本では『古方』の方が参考になるという流派もあります。
漢方薬というと、ことさら現代医学(西洋医学)と対立するものであるかのように捉えられている事もありますが、病気を治すというのが目的なのですから、臨機応変で考えるべきでしょう。
実際、体質などを考慮する事で効果が現れる場合もあれば、「なんで効くの?」という組み合わせで症状が改善してしまう事もあるのですから。世の中そんなものです。
一方、この病名=この漢方薬という図式で選ぶと落とし穴にはまる可能性があるのも事実です。
例えばかつて肝炎には小柴胡湯(しょうさいことう)が多く用いられました。ところが、症状が重篤になるケースがあり副作用によるものとされ、最近では肝炎に小柴胡湯が用いられる事は少なくなりました。
しかし漢方薬を学んでいた医師からすると、呆れてモノも言えないという心境だったそうです。
というのも肝炎に小柴胡湯を使ったら、ある時期から(症状が改善に向かう頃)からは六味丸(ろくみがん)などへ変更するべきだからです。単純に肝炎には小柴胡湯を用いると考えた用法の誤りであり、用法を誤れば副作用が強く出る事があるのは、漢方だろうが現代医学だろうが当然の事です。
メールマガジンでは何度か、「一言で風邪と言っても病状の変化に合わせて漢方薬を変えていくと効果的に治療できる」と書いているのも、そういう理由によります。
そんな訳で、漢方薬を買おうという時には、症状だけではなく体質などの情報も可能な限り検証するのが望ましいです。
「糖尿病の漢方薬をくれ」という患者さんが来て、どんな症状かと尋ねたら、「だから糖尿病なんだよ」とだけ言われて詳しく教えてもらえなくて困ったという体験談を聞いた事もあります。その人は、仕方が無いので適応しそうな漢方薬を見繕って渡しながらも「ホントに効くのかいな?」と自分で思って心の中で苦笑したそうです。
難しい用語も出てきたりしますが、全部を全部勉強して憶える必要はありません。
効果の得られない漢方薬を無駄に買う事の無いように、自分が得をするためにと参考にしていただければ幸いです。