第12回 「食事が原因になる病気 PartⅠ」

食事の不節制は万病のもと
 食事のアンバランスが病気をひきおこす原因のひとつであることは、周知のとおりです。
 しかし、どのような食事がどのような病気の原因になるのかと問われても、糖尿病やビタミン欠乏症などの特定の病気を除いては、あまり知られてはいません。
 漢方の世界では、古くから食事と病気とのかかわりを重要視して、研究してきました。
 そして、食事は人体をつくる基盤であり、したがって食事のアンバランスはさまさまな病気の原因になると考えたのです。

飲食物が気・血・津液の原料となる
 食事が人体をつくる基盤であると書きましたが、これは飲食物が消化され吸収されると、気・血・津液がつくられることによります。
 気・血・津液は、以前に説明したとおり、人体をつくり正気の源となる物質です。
 そこで、まず飲食物がどのように消化・吸収されて気・血・津液になるのかを知ってもらい、その上で飲食物のアンバランスが人体に与える影響を説明することにします。


飲食物の消化・吸収を行う臓器

飲食物中の栄養分を体内に取り入れることが、消化・吸収である
 食事で取った飲食物は、すべてが栄養分ヒなって吸収されるわけではありません。
 消化の過程で不要なものと栄養分とに分けられて、不要なものは大小便として排泄され、残された栄養分だけが吸収されて気・血・津液をつくる原料となるのです。
 飲食物の消化と排泄は、「胃」を中心とした消化管である胃腸によって行われます(ただし水分の排泄は膀胱が中心となります)。
 そして、栄養分を取り入れて気・血・津液をつくりだす働きは、「脾(ひ)」〔現代医学の脾臓とは異なる)によって行われます。

「胃腸」
胃腸は消化・排泄をする、一本の空洞の管である
 胃腸は一本の空洞の管となってつながっており、飲食物は胃で消化されると、小腸・大腸を通過する間に糞便となって排泄されます。
 胃腸が正常なときは、管内の消化物が上から下ヘスムーズに流れますが、もし食べすぎなどで消化しきれないものが滞ったり、管内が乾燥して流れが悪くなると、飲食物が逆流して起こる悪心・嘔吐や、このほか便秘・ゲップ・胃痛や腹痛などが現れます。

「脾」
脾は気・血・津液をつくり、全身を栄養する
 脾には、胃で消化した飲食物の中から栄養分を取り入れ、気・血・津液をつくりだす働きがあるため、「気血生化の源」と呼ばれます。 そしてさらに、栄養分や気・血・津液を運搬し全身を栄養する働きも持っています。
 したがって、「粁軒(ひき)」(脾の働きを主る気)が不足している人は、倦怠感が強い・動くとすぐに疲れる・頭がボーツとする・頚や舌に赤みが無いなどの症状が現れます。

脾胃は消化・吸収の中心である
 飲食物は胃で消化され、その栄養分が脾によって取り入れられることは、前述のとおりですが、じつは、この胃と脾はお互いに協調しあって働いています。
 つまり、脾の働きが正常でも、胃にトラブルが発生して消化が損なわれれば、飲食物を消化して栄養分を取り出すことができないため、気・血・津液をつくる機能にも影響がおよび、しだいに脾も障害されてしまいます。
 反対に、胃の働きが正常でも、脾気が不足して栄養分を取り込むことができなければ、気・血・津液をつくることができないばかりか、栄養分が胃腸にたまって消化能力にも影響します。このことから、脾と胃は切り離せない関係にあり、一般的には消化・吸収は「脾胃(ひい)」が主るといわれます。
 そして、この脾胃の働きを「運化」(「運」は運搬・「化」は消化や変化のこと)と呼びます。
 もし脾胃が虚弱となり運化機能が減退すると、食欲減退・軟便・悪心・嘔吐または消化不良による未消化物の排便・お腹の軽度の脹りや痛みなどが現れます。

脾は水分も運化します。
「運化」機能の中で、漢方独特な考え方のひとつとして取り上げられるものに、「運化水液」があります。
 運化水液とは、水分を吸収して全身に運び潤いを与える機能で、これに関しては、とくに脾が中心となって働きます。
 しかし、飲食物の中では、水分はほかの穀物に比べて非常に重く、すぐに脾の運化機能に負担をかけてしまいます。
 もし水分の拝取量が多すぎたり、脾気が不足して運化水液機能が減退すると、体内に余分な水分が停滞して、むくみ・小便不利(排尿困難・尿量減少・残尿感)・軟便や下痢・肥満・悪心・嘔吐・痰が多量に出る・舌にねっとりした苔(「膩苔(じたい)」と言います)がつくなどの症状が現れます。

  次回は、「食事の不摂生が起こす病気」を書く予定です。

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