漢方薬症例クイズ≪第5回≫
実際の症例を元に、患者さんの症例データーを提示します。 “書いてある内容”から推理して、適応すると考えられる漢方薬の名前を当てて下さい。 基本的に当店で扱っている漢方薬としますが、解答としては必ずしも限定しません。「なるほど、その方法もあるか」と思われる解答であれば、正解とする事があります。(生薬のみや民間療法などは除外します。) 正解者の中から、抽選で4名様に『クツのお留守番』を進呈いたします。(色はご希望に添えない事がございます。) 絶対の正解というものはありませんのであくまで、“あそび”として楽しんでいただければと思います。 皆様の参加をお待ちしています。(終了しました) | クツのお留守番 靴を履いていない時に、靴に入れておく消臭剤です。(色はご希望に添えない事がございます。) |
募集期間:~6月7日(月)
正解発表予定:6月10日(木)
問題 女性。47歳。 主訴は、腹部の不快感、吐き気、食欲減退。 中肉中背、顔色は普通。 夏前の暑い日に外出した時に冷たい物を大量に飲んだ。それ以来、上腹部の不快感、胸悶(きょうもん)、吐き気、食欲減退、食後の上腹部の痞(つか)え、苦満感、背中の冷えなどを感じる。 |
正解 正解はかっ香正気散です。 残念ながら、今回は正解者はいませんでした。 次選の漢方薬としては、解答の中から五苓散・柴苓湯・安中散・小柴胡湯が使えるものと判断して、抽選のうえ以下の方を当選とさせていただきました。おめでとうございます。 ※鈴木陽子様…選んだ理由:小柴胡湯→体力は普通で胸のつかえが同じ症状だと思いました。自信ありません。 ※うえ様…選んだ理由:五苓散→胃腸の不具合によく使っています。とくに、吐き気、つかえのあるときは、効果あり、かと。 ※keikoko様…選んだ理由:安中散→症例がぴったりだったので。 ※ひょうた様…選んだ理由:柴苓湯→空欄。 |
解説 今回の患者さんに関するキーワードは、季節が夏前となっていますが“暑い日”に“冷たい物”を大量に飲んでから症状が現れたと訴えている点にあります。 そして、症状はいずれも胃腸障害を示していますが、背中に冷えを感じているという事は、風邪の可能性を示しています。風邪の兆候を見逃してしまうかどうかが、この後の治療の鍵となるので注意が必要です。 寒い季節と暑い季節とでは風邪をひくプロセスが違い、寒い季節は風邪の原因菌の活動が活発になり体が負けてしまうと発症し、暑い季節は体力の方が落ち込むと風邪の原因菌につけ入れられて発症するケースが多いのです。よく、「お腹に来る風邪」という言い方がありますが、胃腸障害を起こす風邪は、発症する前にすでに胃腸の働きが低下して栄養不足になり体の抵抗力が落ちていたりするのです。 そこで、主訴である腹部の不快感や食欲不振を改善すると共に、夏風邪に対応できる漢方薬としてかっ香正気散を正解としました。 補足 実のところ、胃腸障害は原因が多岐に渡り、その治療に用いる漢方薬の種類も多いため、参加者の皆さんも選ぶのに迷った事と思います。 そのうえで、主訴に対応しており、副作用や不適応となる可能性のある物を除いていったのが、次選の漢方薬です。 それらの中で、胃腸障害と風邪にも効果のあるのは小柴胡湯です。ただし、生薬成分の柴胡(サイコ)は胸脇苦満を緩和するものの同時に悪心を招く事もあり、また黄ごん(オウゴン)は消炎作用に働くため経過観察を怠らないようにしなければなりません。どちらかというと、風邪をこじらせた後の回復期に微熱が残った場合に用いると良いでしょう。 次に、胃腸障害に重点を置いた場合には五苓散が適していると考えられます。効能書きにおいても「暑気あたり」とあり、下痢にも効果があるので、今回のような症状では最初に選択するのに適していると云えます。風邪の可能性が無ければ、もっとも正解に近いと思います。 安中散は、胃内停水というように飲みすぎによる胃の冷えからくる食欲不振などに効果があるので、症状の改善に期待が持てます。ただ、生薬成分は桂枝加芍薬湯に近く、より胃部の痛みを伴う場合や、神経症状がみられる場合の方が適しています。 最後に柴苓湯ですが、この処方は小柴胡湯と五苓散を合わせた物で、「暑気あたり」による胃腸障害と肝機能の低下を改善するのに適しています。今回の症例で考えた場合は、水瀉性の下痢など症状がより重い時、あるいは小柴胡湯と同じように風邪の回復期に下痢症状が残った場合に用いると良いかもしれません。 他には、半夏厚朴湯や半夏瀉心湯、二陳湯などの解答がありました。 確かに半夏厚朴湯は、上腹部の不快感や痞え感に効果があり、暑い日に上半身に溜まった熱気を降下させる作用が期待できます。しかし、処方の構成から考えると半夏厚朴湯は、直接胃腸に作用する働きは弱いので、イライラや不安感などの精神神経症状を伴う場合の方が適しています。 名前の似ている半夏瀉心湯も神経的な胃腸障害に働くと共に、消炎作用が強く働く処方構成で、半夏厚朴湯よりは効果が期待できると思います。ただ、半夏瀉心湯はみぞおちの痞えや下痢の改善を使用目標とする漢方薬であり、その効き目の強さから考えると風邪の兆候がある場合に用いるのは体力の消耗を招く可能性があるため好ましくありません。 二陳湯は、原因の特定できない場合の吐き気全般に効果があるので、リスクも少ないのですが、今回のように水分の取り過ぎが示唆されている場合には、より適応しそうな漢方薬を選んだ方が良いでしょう。 今回は、最初に夏風邪と中(あた)りをつけてサイト内検索をするとかっ香正気散が一番に出てきて、『漢方薬のお勉強会』の『症状別編』の中にある『胃腸(慢性)』を調べると「水分のとりすぎによる食欲不振に」という事でかっ香正気散を見つけられるはずでした(苦笑)。 今回の結果が示すように、胃腸に関係した症例は漢方薬の選択が難しい部類に入ります。「いつもコレを飲んでるから」とか「このあいだと同じのを」と思っていると、適応しないという事もありえますので、実際に選ぶ際にはくれぐれもご注意下さい。 解説:北村俊純 |
参加者コメントより 鈴木陽子:ヤクウサギちゃんの漫画と定期的に配信されるメルマガが何時も楽しみです。他のメルマガとは違い言葉を選んで書いて無い所が正直そうで好きです。これからも楽しみです。 本業とは違うコンテンツも楽しんでいただけているようで、嬉しいです。本文が長いと呆れられているメルマガですが、今後ともよろしくお願いいたします。 keikoko:症例クイズでいつも勉強しますが、難しいです。 理論編の掲載も始めましたので、これからは情報がより充実していく予定です。頑張って下さいませ(^-^)d |