市販薬の「効能」の意味

 常連のお客様が以前に私が勧めた『ハイクタンD』をまとめ買いされようとするので、どうかしましたかと尋ねると疲れが抜けないとのこと。
 もともと精神不安があり病院での治療も受けているため、お薬手帳も拝見したところ漢方薬も幾つか処方されていた。
 しかし、今まで肝臓に働きかけてイライラを鎮める『柴胡加竜骨牡蛎湯』や、緊張を緩和させ気管を開く『半夏厚朴湯』を使ったことがあるものの、どれも良い結果を得られなかったそう。
 ふむぅ、本格的に体質や生活環境を元に適応する漢方薬を探る『弁証論治』をした方が良いと思うのですが。
 担当医は親切に話を聞いてもらえるらしく、なかなか他の医師を頼るという気になれないらしい。
 『柴胡加竜骨牡蛎湯』は肝臓を助けるとはいえ、イライラを鎮めるという点では上半身に作用するとも考えられ、上半身に作用するというのは『半夏厚朴湯』にも共通する。
 ここは一つ方向性を変えて、『十全大補湯』はどうでしょうと提案してみた。
 漢方で言うところの、気・血・水の面倒を見ることから「十全(完全)に大きく補う」とも、「十の生薬で全てを大いに補う」とも云われている漢方薬で、病院では手術後の回復期に処方されることもある、体の土台を支える処方。
 ただし注意点もあって、胃腸機能が極端に低下している時には使えない。
 つまり、疲労はしていても食欲はあるのが使用条件となる。
 興味を持たれて試して頂くことになったので、担当医には報告するようお願いした。
 そしてお会計の後に、本人の興味なのか仕事が関係しているのか、『ボルタレン』や『ロキソニン』の作用機序を化学構造式の面から質問されて困った。
 あうっ、そこまでの知識はありません(^_^;)
 この仕事に就いてから、初めてそんな質問を受けたよ……。

 『オロナインH軟膏』を求めて来店したお客様に売り場を案内すると、怪我から火傷から万能薬のようなことを言われるので用途を尋ねたら、洗い物での手荒れに使っているという。
 ワセリンが入っているから水は弾くけど、基本的には消毒薬に過ぎないため、皮膚のケアにはならない。
 実際に手を見せてもらったら、明らかに皹(あかぎれ)の状態。
 効くと信じている物を「効きませんよ」とストレートにも言えず、薄手の手袋をしたり、そのつど洗わないで浸け置き洗いにするよう提案してみたけど、手袋は装着するのが面倒なのと外した時の匂いが嫌で、洗い物を溜めるのも気分が落ち着かないそう。
 それではやはり皮膚のケアが必要なことをお話すると、化粧品のハンドクリームを使っているという。
 でも患部の状態を見ると、皮膚の再生が追いついていない。
 そのため、血行促進が必要なことを説明して『ヒビケア』などを案内してみたが、効能に書いてある症状が全て該当しないとならないと考えているらしかった。
 それでいて、『オロナインH軟膏』には多くの効能が書いてあるのは信じているのだから、その心理が良く分からない。
 『オロナインH軟膏』に多くの効能が書いてあるのは、いわば主な効用が消毒で、外傷なら消毒が適応しない訳が無いから該当するだけ。
 そして市販薬というのは、症状の緩和が目的であって必ずしも治療目的ではないため、完治しなくても一定の効果があれば効能として認められる。
 つまり、繰り返しになるけど、外傷に消毒が一定の効果があるのは当たり前。
 でも、同時に緩和が主な目標だから、長期的な継続状態ならば、病院を受診するなりして治療は検討した方が良い。
 現に、お客様の手荒れの状態は、うっすらと血が滲んでいる。
 しかし、『オロナインH軟膏』の効能に「しもやけ」とあり、自分はしもやけにも使っていて、やはり「なんにでも効く」のではないかと言われる。
 む~、患者さんを論破したい訳じゃないから強く否定はできない、かといって症状が改善しないのを放置しておいて良いものかと悩む。
 一応は、内服薬に『当帰四逆加呉茱萸生姜湯』も紹介してみたけど、やはり興味は持たれず、受診勧奨も気乗りしない様子。
 病院に行ったという話が出てこないから、病院を回って諦めたというのでも無さそうだし。
 そう思っていたら、唐突に黒ジンジャーのサプリメントを飲んでると言われた。
 血行改善のために、という事だろうか?
 にしても、患部を見る限りじゃ効いてないんじゃないかと……。
 『オロナインH軟膏』はお買い上げ頂いたけど、何か他に良いアプローチは無かっただろうかと自問自答。
 頭では、患者さんの希望に沿うのが鉄則で、「助けよう」などと考えるのは思い上がりだと分かってはいるんですが(-_-;)

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