頼まれ物は、伝言ゲームや連想ゲームの如し

 鼻炎薬の棚を行ったり来たりしていたお客様が、風邪の棚に移り『ストナジェルサイナスS』をレジに持ってきたので、鼻風邪なのか尋ねてみると、家族からの頼まれ物だとのこと。
 この段階で、ご主人や奥さんなのか子供なのかといった「誰が使うのか」を教えてもらえると助かるんだけどねぇ。
 訊くタイミングを外すと、質問攻めを避けようとして確認しそびれてしまうことが……。
 いや、訊き方が悪いのかもしれませんが、どうして「誰が使うのか」という重要な情報を教えたがらないのか分らないの(´・ω・`)
 鼻炎の棚も見ていたことからすると発熱は無いのかもしれず、花粉症などのアレルギーとも考えられるため、鼻水の状態を確かめてみるようお話した。
 基本的に、透明でサラサラなら内臓の冷えかアレルギー性鼻炎、透明でも重量感があったり白く濁ってるか黄色などの色が付いていたら風邪と鑑別できる。
 すると、喉の痛みもあるらしい。
 喉の痛みというのは判断の難しい症状で、花粉を吸って喉が炎症を起こしていることもあれば、胃炎を喉の痛みと感知していることもあり、喉の痛み方が分からないとなんともいえず、本人でないと微妙なニュアンスがヒアリングできない。
 しかも世間一般では、「喉の痛み=風邪」の図式が根強く、喉が痛むと風邪薬をという人が多いため、話の持って行き方に悩むことがしばしば。
 今回も、頼まれ物とあってはこれ以上は深入りできず、そのままお買い上げ頂いた。

 お客様が、頼まれ物ということで『アルパノール』(抑肝散)を求めて来店した。
 しかし、うちのお店には類似処方の『抑肝散加芍薬黄連』しか置いていない。
 代用できないこともないが、胃腸が弱かったり体力が低下している人だと勧めにくいから、頼まれ物では代替品とするのには不適当だろう。
 また、お客様はもちろん頼んだ人も『アルパノール』を単に不眠改善薬とだけ思っているようで、その作用については知らないようだった。
 『抑肝散』は読んで字の如しで、肝臓の働きを抑制して症状を散らす。
 厳密には漢方で云う「肝」と臓器としての「肝臓」は完全一致はしないのだけれど、考え方としては肝臓はイライラや怒りと関連があり、肝臓の働きが悪くなるとイライラして寝付くのに時間が掛かるようになる。
 そして肝臓に限った話ではないが、人間の臓器は体力が低下していない限り、働きが悪くなると「頑張ろう」と過剰に働き、ますます機能を低下させてしまう。
 そこで、その働きを抑制して落ち着かせることが必要となる。
 この作用を利用して、病院では認知症で怒りっぽい人を落ち着かせるために処方される事もあるそう。
 ちなみに、漢方では「心」が弱ると、やはり怒りっぽくなると考えるのだが、「肝」との違いは起こり方の性質。
「心」の方は瞬間湯沸し器のように一瞬で、怒った後にはニコニコしているようなタイプ。
「肝」の方は持続的で、絶えず機嫌が悪くイライラしているようなタイプ。
 もちろん人間だから、どちらかに完全に偏るということは無いし、歳を取ってくると心臓も肝臓も機能が低下するし、他に胃腸や腎臓も睡眠に関わってくるから鑑別は、より複雑になります。
 ただ、「昔はこうじゃなかったのに」という性格の変化があるのなら、脳の機能障害だけではなく内臓機能の低下も疑ったほうが良い。
 あと、これは余談だけど、お客様に暴言を吐かれたりして腹が立った時には、「ああ、何処か内臓が悪いんだろうな」と思うと、少し優しい気持ちになります(o ̄∇ ̄)o←性格悪い
 ……それはともかく、ご本人が直接訪れてヒアリングできるのが望ましいことを伝えたところ、本日はお帰りになられた。
 以下は自己メモついでに、『抑肝散』以外の不眠に使う漢方薬の例。
 寝付くのに時間が掛かる入眠困難には、「肝」を養う『柴胡加竜骨牡蛎湯』
 何度も目をさましてしまう中途覚醒には、「腎」を養う『牛車腎気丸』
 ウツラウツラと眠りが浅い場合には、「脾胃」をいたわる『桂枝加竜骨牡蛎湯』
 ここから、さらに応用例。
 息苦しく感じて掛け布団をはいでしまう人は、「肺」を助け緊張を緩和する『半夏厚朴湯』
 不安感で色々と考えたり夜勤などで頭が冴えて寝付けない人は、やはり「脾胃」をいたわる『加味帰脾湯』
 疲労で体は休みたいのに自身の心臓の音さえ気になって、寝入ってはビクッと起きてしまう人は『ナイトミン』(酸棗仁湯)
 そして、鑑別が難しく迷った時には、「肝」も「脾胃」も面倒見てくれる『柴胡桂枝湯』
 私の母親は、風邪の後期の疲労回復や胃腸炎に用いる『柴胡桂枝湯』を飲むと眠くなるそうな。
 眠くなる成分は一切入っていなくて、効能にも睡眠な関することは書いてないんだけどねぇ。
 そんな訳で、一口に不眠と言っても候補は多いので、買い出しを頼む人は自身の状況をお遣いする人に伝えて、お遣いを頼まれる人は商品名だけではなく症状を確認しておいてくださいな。
 最低限、「寝るまでに時間が掛かる」のか、「何度も目を覚ましてしまう」のか、「寝ててもウツラウツラと意識がある」のか、あるいは複合型なのか分かると絞り込みやすくなります。
 あと、弱ってる臓器の予測もできるので、場合によっては循環器科を受診すると改善できるかも。

 鼻炎薬の棚の前で、携帯電話で通話をしたり、写真を撮ってメールでやり取りしているらしいお客様から、『パブロン鼻炎カプセルS』と『パブロン鼻炎カプセルSα』の違いを尋ねられた。
 ああ、頼まれた物の名前とパッケージデザインが微妙に違っていたから困っていたのね。
 それこそ、早く訊いてくれれば良いのに。
 でも道具を駆使して、頼んだ相手と連絡を取りながら確認するのは良いですな。
 携帯端末がこれだけ普及していても、買い物で活用する人は案外と少数派な気がする。
 お客様には、『S』が旧製品で『Sα』が同製品の後継であることを説明した。
 ところが、前言撤回するようだけど、頼んだ人は「鼻炎カプセルを」という指定なんだそうな。
 それは、範囲が広すぎる(;´Д`)
 しかも、仕事で車の運転をするというから、眠くなる可能性のある同シリーズは勧められない。
 そこで、比較的眠くなりにくい『ロートアルガードクイックチュアブル』を紹介し、相手には使った薬の使用感をメモして、成分表示を取っておくことを伝えるようお話した。
 すると、また相手に連絡を取り旧製品の『パブロン鼻炎カプセルS』を買っていかれた。
 やはり、カプセルが欲しいんだそうな。
 服用したら、車の運転は避けてくださいねー(」´Д`)」!!!

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