ホントは訊かれたくない胃薬のコト

 お客様から、ご主人が食後のゲップと膨満感があるとのことで薬の相談をされたのだが、早食いのうえ、病院からは複数の薬が処方されてるというのにお薬手帳を持ってきていないため、処方構成が比較的単純な風邪薬などより胃薬の方が飲み合わせが難しいことを説明した。
 こう言ってはなんだが、登録販売者の間でも胃薬が鬼門だという人は少なくない。
 というのも胃薬の中には、胃酸の分泌を抑える制酸剤と消化を助ける消化剤が一緒に入っている物もある。
 反対の作用の成分がどうして入ってるのかといえば、メーカーの研究者さん曰く「市場のニーズです」とのこと。
 つまり、「なんにでも効く薬が欲しい」というニーズに応えた結果、実際の個別の症状に対応した物を選択するのが非常に難しくなってしまっているのが胃薬なのだ。
 そのうえ、風邪薬に含まれる解熱剤や咳止めの気管支拡張剤などは作用機序が明確なので、他の服用している薬が分からなくても、血圧を下げる降圧剤などとの飲み合わせは予測が立てやすいから、重大な副作用を起こす可能性が高い成分を避ければ、まず問題無い。
 それに、風邪自体が「放っておいても治る」病気である。
 以前に製薬メーカーの研究員さんから風邪薬の治験データを見せてもらったが、風邪薬の主眼はあくまで症状の緩和であって、服用した場合と服用しなかった場合とを比較しても、風邪が完治するまでの日数に優位な差は無かったし、その点は研究員さんも認めていた。
 一方、胃薬に用いられる成分には、水分代謝に影響する物、血管の拡張収縮に影響する物、神経伝達に影響する物と多岐にわたり、そのうえ先に書いたように互いに異なる作用の物が混淆されており、なおかつ風邪と違い胃の病気は放っておいて治るというたぐいのものではなく悪化する可能性を孕んでいるのだ。
 風邪薬は飲み合わせを気にして相談されるお客様は少なくないのに、圧倒的に胃薬は自分で選ばれることが多いし、案内を申し出ても「大丈夫です」と断られる。
 しかし、訊かれたら訊かれたで非常に選定が難しく、正直なところ私も「お客様から訊かれなきゃ、お客様が選んだ薬をそのまま売りたい」のが胃薬なんである。
 今回は、ご主人と連絡が取れたので8種類ほどの薬の名前を聞き出して調べたところ、不眠に精神安定剤が処方されていて、降圧剤の他に脂質異常と糖尿病の薬もあった。
 お客様は「精神の薬は関係無いと思う」と言われていたが、精神活動に影響するセロトニンは胃の働きにも関係し、当然のことながら精神安定剤によっては副作用が胃の機能を低下させるものであることを説明した。
 そして、やはり処方されている精神安定剤の副作用の項目には、ご主人の症状と関係がありそうな記述を見つけた。
 副作用の可能性があるため、まずは担当医に相談するよう勧めたのだけれど、何か薬は買っていきたいと頼まれる。
 むー、困った。
 薬を頼りにするのであれば、薬の怖さも意識してもらいたいところ。
 仕方ないので『半夏瀉心湯』を候補に考え、再度ご主人に連絡していただき肋骨の下側に指を入れて痛むか確認してもらうと、それは無いと言うので『六君子湯』を試してもらうことになった。
 お客様には重ねて、市販薬を購入するさいにもおくすり手帳は必要なことと、これだけ薬を飲まれているとなれば災害時には本人が持っていることが重要なことを説明した。
 災害で避難した場合、救援物資にその薬を要請することもできるので。
 また、ご主人に早食いさせないために食べながら話しかけたり、あるいは食卓にいっぺんに食事を出さずに小分けでおかわりをさせる方法を提案した。

 若いお客様から、頭痛に「強い薬を」と希望されたが、相性も関係することをお話し、使ったことがある物を尋ねると『バファリンA』とのことだった。
 そして痛み方は締めつけられる様な感じとのお話だったので、血圧や肩こりなどが関係する可能性を説明し『ズッキノン』(釣藤散)を紹介してみたが興味を示されず、『バファリンA』は全然効かなかったと言うので、他の成分を試してみるよう勧めたところ、『バファリンルナi』を購入された。
 同じ『バファリン』のブランド名がついているが、中味はイブプロフェン製剤で別物である。

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