ニセ医学から患者さんを守る戦いは消耗するばかり

 お客様から、急な腹痛の相談。
 これからまた仕事に戻らなければならず、今は下痢をしている訳でもないそうなので『コレムケア』(芍薬甘草湯)を案内したのだけれど、痛むのがお臍の周りという事から、後でお腹を下すかもしれないと思い直し、『エクトールDX』を勧めた。
 『即効丸』を扱っていれば、そっちを勧めたかった。
 仕入れルートは無いものか。
 今回は結局、お客様が普段は『正露丸』を使ってるとのことで、糖衣錠を購入された。
 使いたい物が決まっているのなら、さっきの相談は何なのかと思わなくもないものの、そもそも相談するお客様の方が珍しいので、それだけでも良かったと思う。
 それに、今まで効果があったという事は、相性が良いという事だろうし。
 ただし、『正露丸』が適応するのは、基本的には飲食物が汚染されているような食中り。
 一応は、そう説明しておいた。
 そういえば、『正露丸』の成分である医薬品の「木クレオソート」を防腐剤の「クレオソート」と勘違いして、体に害があると喧伝している人達がいる。
 中でも酷いのが、『船瀬塾』を主宰しているジャーナリストの船瀬俊介。
 ネットで、『船瀬塾』のテキストの一部を見たけど、「主成分のクレオソートに発がん性の疑いあり」と書いてある。
 http://www.seirogan.co.jp/products/seirogan/truth/creosote01.html
 この人はきっと、「インフルエンザウイル」と「インフルエンザ菌」の区別もつかないと思う。
 名前が似ているからって、勝手に混同して貶めるって、ジャーナリストが一番しちゃいけない事じゃないのか。
 犯罪者と似ている名前の人を掴まえて、「コイツ悪い奴なんですよ」と糾弾するその姿勢は、冤罪事件の温床そのもの。
 そのうえ、「検査は受けるな!クスリは飲むな!病院に行くな!」というテーマで講演を行なっていて、そんなに人を殺したいのかと。
 本人が自身でそうするのなら、その思想信条そのものはアリだけと、他の人を巻き込むような真似は、やめてもらいたい。
 「クスリ漬け医療の脱却をはかるために、皆さんと力を合わせて戦いましょう!」とメッセージを発信しているが、いったい何と戦っているのやら。
 『船瀬俊介に殺される~「抗ガン剤で殺される!」批判~』というネットの記事を読むと分かるように、医療現場の人たちは、こういう輩からも患者さんを守らなければならない。
 戦っているのは、医療現場の人たちの方なんである。
 http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20091207
 そして、ニセ医学との戦いは果てしない消耗戦である。
 なにろしろ、ニセ医学を提唱する人の動機は様々。
 実際に医療事故の被害に遭われた被害者や家族なら、まだ対応の仕方というものがある。
 まぁ、体験を元に治療そのものを否定するのは、別な被害の種を撒くようなものだから困るので、せめて医療事故の救済策の充実を訴えるくらいにして貰いたいけれど。
 困るのは、正義感やら強烈な承認欲求(人々に認められたい、賞賛されたい)が動機の場合だ。
 たとえ少数の人達からでも、「その通り!」とか「いいね!」と言ってもらえればモチベーションが上がり、活動の原動力となってしまう。
 対して医療関係者が反論を試みても、そもそも敵視されているうえ、反論の要旨はどうしたって常識の範囲に留まって面白みに欠けるため注目されにくく、誠実であればあるほど医学の限界を正直に語るから「100%治る」などとは言わないため賞賛もされない。
 せめて金銭でも何でも対価が得られれば別だろうけど、反論に労力を掛ける余裕があるならば、目の前にいる患者さんに真摯に応対するのが、この職種を選んだ者の使命というもの。
 しかし、そうやって職務に忠実に働いている間にも、ニセ医学の情報は拡散していくのだから、真剣に向き合ったら心身ともに消耗するばかり。
 だから、ニセ医学からは自衛してもらうしかないのだ。

 『新コルゲンコーワトローチ』と『パブロントローチAZ』を比較しての質問を、お客様から受けた。
 分かりやすく、でも間違い無く答えるというのは、難しい。
 前者は患部を消毒するような物で、後者はアレルギーのように異物に反応したさいの炎症を抑えます、という答えはきっと、テストでは0点である。
 なので、その辺りは軽く流し(マテ)、症状を詳しく尋ねると患者さんは御主人で、喉がカサついて痰が張りつくと訴えている模様。
 これは『麦門冬湯』の出番だろうと勧めたところ、購入されるというのでトローチの方はキャンセルするか確認すると、頼まれ物だからという事で『新コルゲンコーワトローチ』を一緒にお買い上げ頂いた。
 まぁ、頼まれ物じゃそうなりますよね。
 ただ、現在の症状からすると、余計に患部を荒れさせそうなのが心配(;´д`)

 『ヘパリーゼ』の液剤を購入されたお客様に、効能としては疲労回復だけで、本格的に飲酒による肝臓の働きを助けるには、『ネオレバルミン』の方が適していますと紹介した。
 今回は購入に至らなかったものの、興味は持って頂けたようだ。
 そういや、近所のドラッグストアでは、ビールの横に『ヘパリーゼ』が陳列してあった。
 法的に禁止されていないとはいえ、その売り方は、どーなのよ。
 こういう時にこそ言いたいね、「クスリは飲むな!」ってセリフは。
「薬飲み飲み、酒を飲み」なんて、落語じゃないんだから。
 『ヘパリーゼ』の効能書きには、「肝臓疾患」とは書いてないですよん。

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ニセ医学から患者さんを守る戦いは消耗するばかりへの2件のコメント

  1. アバター はぐれ薬剤師
    はぐれ薬剤師 コメント投稿者

    クレオソートの発がん性が言われたのはもう40年以上前のことです。以後各社処方変更した経緯が有ります。でも、正露丸をご飯代はりに食べる訳ではないですからね。自然観を持っていれば何が本当で嘘なのかわかるのですが。

     
    • アバター 北村俊純
      北村俊純 コメント投稿者

      なるほど、そういう経緯もありましたか。
      それにしても、その後の情報をアップデートしていないジャーナリストというのも、困ったものです。
      カップラーメンの容器の素材の問題も、問題になる量は、中身のラーメンじゃなくて容器を食べた場合の量を、ことさら危険だと煽っていました。