お客様が『柴胡桂枝湯』を購入されたけれど、患者はご主人で、肩から腹部にかけての痛みがあり、肝臓を心配した本人がネットで見て頼まれたそうだ。
見立ては外れていないし、相談されれば私も『柴胡桂枝湯』を提案すると思うが、肩の痛みが心臓など他の部位の可能性もあるので、吐き気など他の症状が現れないか経過観察に注意するよう伝えた。
本人は病院に行こうとも思っているというので、その前提があれば良いことを伝えた。
ただ今回も、私の方がヒアリングしなければ、ネットで見た情報でそのまま薬を買われる事になっていたかと思うと、その点は心配ではある。
自分で調べるというのは良いことだから、ネットで調べた次の段階としては買うのを人に頼まないで本人に店頭に来てもらいたいし、登録販売者や薬剤師に確認してから購入してもらいたいと思う。
お客様が『葛根湯』と『麻黄湯』を見ていて後者を購入されるので用途を尋ねると、普段から常備薬にしているとのことだったが、『柴胡桂枝湯』を知らないというため紹介した。
『葛根湯』は風邪の初期に向いていて、この初期というのは症状が現れる前の段階のことである。
例えば、「頭が痛い……気がする」とか「悪寒……かな?」という時に、早め早めに使うと効果的なのだが、上半身を温める作用があるため喉が痛い時に使うと余計ヒリヒリするし、咳があったら体内が乾燥してなお咳は激しくなり、発熱してから使うのでは遅すぎる。
だから『葛根湯』は家に置いておくよりも持ち歩いて、「おかしい」と感じたら出先で飲んでしまった方が良い。
そして発熱し始めて汗をかく前であれば『麻黄湯』を使い、体が風邪と戦うのを支援するのが効果的。
また、風邪による関節痛にも適応するので、風邪の中期に用いることが多い。
汗をかいた後には体力の低下を防ぐために、『柴胡桂枝湯』に乗り換える。
特に現代薬には、吐き気のある風邪に対応できる物は皆無なので、発熱して吐き気があるのであれば『麻黄湯』を飛ばすか、あるいは『葛根湯』も使わずに、最初から『柴胡桂枝湯』で行くという方法もある。
なにより『葛根湯』や『麻黄湯』は胃への負担があるので、これらが使えるうちは若い証拠とお客様に伝えた。
おっと忘れてはいけない、『葛根湯』は上半身を温める訳だが、その反対に上半身を冷やす『銀翹散』もある。
悪寒や鼻水が無く、喉の痛みが主訴であれば、『葛根湯』ではなく『銀翹散』を使った方が良い。
という訳で風邪に備えた漢方薬としては、『葛根湯』と『銀翹散』を表裏一体の組み合わせとして風邪の初期に、発熱を伴う風邪の中期や関節痛に『麻黄湯』を、そして風邪の後期や体力の維持に『柴胡桂枝湯』が薬箱にあると安心である。
特にお年寄りや疲労が溜まっている人の場合は、微熱だからといって風邪の初期だとは限らない。
体力が足りなくて熱を出せないだけかもしれないため、微熱ならば『麻黄湯』で行くより『柴胡桂枝湯』で様子を見たほうが良いだろう。