夫婦のお客様が来店し、奥さんが手荒れに『オロナインH軟膏』を使っていたそうで、症状が改善しないと相談を受けた。
実のところ皮膚疾患を治す成分は何も入っておらず、消毒薬であるため治す効果は無いものの、油分で患部を保護するのは良いこととお話したうえで、患部の赤味が強いことからステロイド製剤の『メディクイック』の軟膏とクリーム剤を案内した。
患者さんが使っていた薬が適応しないことを伝えるのは大事であるのと同時に、不快にさせない言い回しに頭を使う。
定型文があると楽なのだけれど、人によって性格や捉え方が違うからそうもいかず、ヒアリングしながら読み解かなければならないので大変。
正直、無駄な労力になって、私の足りない頭からすると、適切な薬の選定にこそ労力を使いたいので、分からないまま薬を使うより先に相談してもらいたいところ。
例えば『オロナインH軟膏』のようにベタつく物を、好みで嫌う人がいるけれど、剤形にも効果の面で意味があったりする。
先にも書いたように軟膏は油分が多く、ベタつくことにより服などと擦れないのが利点となる。
いわば、範囲が少し広めだとか絆創膏を貼りにくい場所を保護するのに役立ち、皮膚疾患は患部を気にしてつい触ってしまうのも防いでくれる。
一方、クリーム剤は塗った後にサラサラして好まれることが多いが、その本質は浸透力にある。
人間の皮膚のバリア機能は案外と強力で、薬といえど異物が容易に浸透することが出来ない。
そのバリアを破って浸透するように調節されているのがクリーム剤なんである。
シャンプーやハンドソープなどで自然由来の物を有難がり、皮膚に成分が浸透するなどと危険視して「経皮毒」なる独自の用語で人々を怖がらせる輩がいるけれど、そんな容易に皮膚から薬剤を浸透させる技術を知っているのなら、ぜひ製薬メーカーの研究者に教えてあげてほしい。
感謝されるか、呆れられるかのどちらかになるだろう。
そして、液剤や乳液剤などは患部が広い場合に、塗り拡げるのに役に立つ。
つまり、塗り薬は「患部を保護する」「患部に浸透させる」「広範囲に塗り拡げる」というように、目的によって大きく分けると3種類ある。
皮膚疾患が複数の場所で起きている場合、1種類の薬で対応したいと思うかもしれないが、症状の重い場所にはクリーム剤で浸透させ、服と擦れたり手で触りがちな場所は軟膏で保護し、症状が軽くて広範囲に及んでいる場合には液剤をというように使い分けるのが良い。
その場合、塗り重ねる順番としては範囲の広い液剤を先に使い、症状の重い場所にはピンポイントでクリーム剤を用いて、服と擦れそうな場所には軟膏を重ねるか、薬効成分の無い『ワセリン』で保護する。
お客様には、寝る時に患部が布団と擦るのも良くないため、綿の手袋をする方法を提案し、その代わりに軟膏を選ぶのも良いと説明したところ、『メディクイック軟膏』をお買い上げいただいた。
また、手の洗い方としてハンドソープなどを使わずに、キッチンペーパーでこすり洗いする方法を教えた。
洗った後にキッチンペーパーで拭くのではなく、流水でこすり洗をするんである。
そうすれば、皮膚を守る皮脂を落しすぎない。
それから養生法として、皮膚の材料を運ぶ血流を良くするのに血管を開くために、テレビやスマホを見ている時間にお湯を入れた湯呑みを握ったり、入浴時には湯船に手を入れるよう勧めた。
若いお客様から「同じ虫刺されの薬を」と求められ、「現物を持ってきました」と差し出してきたのが『オロナインH軟膏』だったので、ズコーッとなったヽ(・ω・)/
お客様の様子から大丈夫と判断して、単刀直入に痒み止めも炎症を抑える成分も入っていないことを説明し、『ムヒEXクリーム』と『マニューバ EX』を強い炎症にも対応できるステロイド剤として紹介したけれど、納得されないようだった。
うーむ、見立て間違いか。
短時間でお客様の性格を推測するというのは、やっぱり難しい。
人の心を読める超能力が欲しいです(;´Д`)
確かに『オロナインH軟膏』は効能に「にきび、吹出物、はたけ、やけど(かるいもの)、ひび、しもやけ、あかぎれ、きず、水虫(じゅくじゅくしていないもの)、たむし、いんきん、しらくも」と、かなり広範囲の症状が書かれている。
「しらくも」なんて白癬菌のことで、ようは水虫などだけれど、本当に効果がある訳ではない。
主成分は、あくまで殺菌剤のクロルヘキシジングルコン酸塩で、それをワセリンなどで軟膏にしているだけ。
一応、液剤よりも蒸発しにくいから患部を殺菌し続けると考えることもできるとはいえ、治すのはあくまで自分の力だ。
あまりにも昔に承認され、自力で治るのを手伝うという点において嘘ではないし、害がある訳でもないから認められているものの、この処方内容で新規に申請するのは無理だろうとは、別な製薬会社の研究員さんのお話。
とりあえず、お客様自身が他の虫刺されの薬では納得せず「同じ薬を」との要望なので、『オロナインH軟膏』程度の内容なら『ワセリン』でも代用可能であることをお話すると、家にあるとのことでお帰りになった。
お客様からは、ヤケドなど「多くの効能が書いてあるのに」と言われたため、あくまで患部の保護が目的ですと重ねて説明した。