やや高齢の夫婦のお客様が来店し、奥さんが両手を真っ赤にしていて痒みが強いようなので、ステロイド剤入りの虫刺されの薬が使えることをお話すると、家には無いというため、『ムヒアルファSIIクリーム』を案内し、お使いいただくことになった。
念のため、塗り薬には剤形の違いで使い分けることがあるのを教えた。
今回のようなクリーム剤は、皮膚のバリア機能を破って浸透しやすく調整されているので、同じ処方内容なら一番効き目が良いと考えられる。
サラサラしていることから好まれる液剤は、広範囲に塗り拡げられるのと手に薬剤が付かないのが便利ではあるけれど、人間の皮膚のバリア機能は案外と高くて浸透しにくいのは先に述べたとおり。
そしてベタつく軟膏は、そのベタつきによって皮膚同士や患部が服などと擦れるのを防いで、患部を絆創膏の代わりに保護してくれるから、ベタつくのが嫌だという人も一考するのが望ましい。
そんなお話を奥さんにしていたら、ご主人が『スクラート胃腸薬S』の錠剤をスッとレジに置いてどこかへ行ってしまい、奥さんに症状をヒアリングする形になった。
しかし、ご主人の症状を分からないというため呼び戻していただき、無印の『スクラート胃腸薬』との違いを説明したが、「何だっていいんだよ」と言い残して再び立ち去ってしまった。
いや、錠剤と顆粒を比較するだけでも、胃腸薬については同じ処方内容ならば胃腸にも味覚と嗅覚があり、匂いもまた効き目のうちだから顆粒の方が良いという考え方があるのですよ。
それに両者は胃を保護する成分が共通しているけれど、胃が疲れている場合に胃の働きを助けてくれる処方構成なのが『スクラート胃腸薬S』で、普段から食欲があって良く食べるような人が、たまたま食べすぎて胃痛を起こしている場合には無印の『スクラート胃腸薬』が適応する。
簡易的な鑑別法としては、お湯と冷たい水のどちらを飲むと症状が和らぐかという方法がある。
お湯を飲んで温まると楽になる場合は、胃が冷えているか疲れていると考えられ、『スクラート胃腸薬S』が向いており、冷たい水を飲むと気持ち良くなるようなら胃炎を起こしていたり胃酸の出過ぎの可能性が高いため無印の『スクラート胃腸薬』という具合。
奥さんに教えたものの、「あの人は何だっていいんだから……」と溜め息をついてお帰りになった。
幼児を連れたお客様が、『お肌の虫よけプレシャワーDFミスト』を購入され、身体に吹き付けるより、掌に出して身体に塗る方が効果的なことを伝えた。
主成分であるイカリジンは毒性が低く小さい子供にも安心して使える反面、ディードと較べると効果のある虫の種類が限られる。
そして、イカリジンもディードも「虫よけ」と呼んでいるが、実は虫を寄せ付けないのではなく、虫のセンサーを狂わせて人間を「見えなくしている」のだ。
つまり、薬剤を吸い込まないようにと息を止めて手を伸ばしながら身体に吹き付けるスタイルで使うと、薬剤の付いていない部分は虫から見えてしまい刺されることとなる。
だから、顔や手足など服から出ている部分には、掌で塗り拡げるのが良い。
ちなみに、イカリジンにしてもディードにしても、吸い込めば気持ち悪くなるものの、人間の神経には直接的な害は及ばさないので、吸い込むことを極端に恐れる必要は無い。
虫と人間とでは神経の仕組みが異なり、両方とも対虫の薬剤としては安全性は高い。
先にイカリジンは「毒性が低い」と書いたが、あくまで相対的な話で、ディードも毒性が高い訳では無いんである。