『アルコール75%』と書いてあるジェルを手にしたお客様から、医薬品専用レジ以外でお会計して良いか尋ねられ、薬ではないから大丈夫ですと答えたついでに、「こちらにちゃんとした商品がありますが」と消毒用アルコールジェルを案内すると、「ちゃんとしたのって何?」と怪訝そうに質問されたので、手に持っている商品のパッケージに「保湿液」と書いてあるのを見せたら態度が変わった。
厚生労働省の認可を受けて効果が分かっているのは、「消毒」あるいは「殺菌」とパッケージや本体に書かれている物のみ。
認可を受けられないか、申請費用を惜しんでいる商品は、「除菌」とか「洗浄」などと別な用語を使っている。
主な用途が掃除などで、身体に使わない物には「消毒」や「殺菌」の用語を記載できないという事情もある。
今回の商品の場合、もし中身を調べられてアルコールの濃度が低くても、『アルコール75%』というのはあくまで商品名であり、「保湿液」を消毒用アルコールと間違えて購入したお客様の責任なんてことを狙ってるのだろう。
消毒用アルコールが品不足になって以来、この手の姑息な商品が数多く出回ってしまった。
もちろん、中にはちゃんとした商品も存在するかもしれない。
しかし、それは自分で調べなければ分からない。
その点、「消毒」か「殺菌」と書いてあれば、まず一定の品質は保証されていると言える。
お客様に『メディスコール』を案内したところ、そちらをお買い上げとなった。
家族連れのお客様から子供の手荒れの相談を受け、消毒用アルコールが原因だと思うとのことで、指の間に痒みを感じるというため虫刺されや湿疹の薬でも対応できることをお話すると、家に『液体ムヒS』があると分かった。
『ムヒSクリーム』が同シリーズでは、『ムヒベビー』に次いで効き目の穏やかな痒み止めなのに対して、『液体ムヒS』はステロイド剤入りの強めな薬。
ステロイド剤は炎症を抑える効果が高い代わりに、患部の免疫力が低下して細菌などへの抵抗力が落ちたり、皮膚の再生を邪魔してしまうことから副作用を過度に怖がる人がいるが、長期連用するのでなければ初期にステロイド剤を使って症状を素早く抑え、治るに従って薬も弱い物に落としていく「ステップダウン方式」が望ましい。
弱い薬をダラダラと長く使ったり、患部を掻き崩してしまう方が良くないからだ。
お客様は、『オロナインH軟膏』を使っていたというため、治す成分は入っていないものの、患部の保護に役立つことを説明し、『液体ムヒS』を塗った後に重ねるのも良いと併用を勧めた。
そして、子供本人を連れて来ていただくのは良い事と、お話をした。
子供の薬を買いにみえるお客様の多くが、肝心の子供の症状を良く観察しないままで、ヒアリングしても「分からない」という答えが返ってきがちなので。
また、子供の症状を確認してからの時間経過によって、症状がすでに移り変わっているというケースもある。
だから、本人が寝込んだりして外出できないのでなければ、連れてきてもらうのが一番良い。
もしくは、今回のような皮膚疾患ならばスマホで写真を撮っておいたり、家で留守番している子供と連絡が取れるようにしてもらえると、対応しやすい。
お客様からは他に母親の頭痛の相談を受け、以前に『ロキソニン』は使ったことがあるそうで、『イブ』と『バファリンA』の違いを説明し、鎮痛成分を重ねた『バファリンルナ Ii』や、気持ちを落ち着ける鎮静成分の入った物についても案内したところ、『イブ』の無印をお買い上げいただいた。
というのも、母親の頭痛はズキズキする偏頭痛と、締め付けられる緊張型頭痛の両方が起きるというお話だったから。
主成分である、『ロキソニン』のロキソプロフェンと『イブ』のイブプロフェンは化学構造式の似た親戚みたいな物で、病院で『ロキソニン』が処方される機会が多いからか、店頭でもと買いに来るお客様が多い。
しかし飲み薬の『ロキソニン』は、副作用のリスクの高い第1類医薬品に分類されているため、薬剤師のいる店舗で薬剤師の勤務時間しか販売していない。
それに、『ロキソニン』は早く効くのが利点である反面、体から抜けるのも早く、突発的な頭痛には向いていても、生理痛など持続的な痛みには約1.5倍長く効く『イブ』のほうが有利な場合もある。
そして両者の鎮痛剤としての性質は、痛みの伝達物質の生成を抑えるとともに、痛みの信号を中枢神経が受け取るのを邪魔してくれること。
じゃあ一番効くのかといえば、人間の体は機械じゃないから、そう上手くも行かない。
例えば、緊張性頭痛は肩こりと連動していることが多く、血行不良が原因なので、血液をサラサラにする効果のあり、末梢神経に作用して痛い場所に直接効くアスピリンが主成分の『バファリンA』の方が適応するとも考えられる。
ところが紛らわしいことに、同シリーズの『バファリンルナi』は『バファリンA』とは縁もゆかりも無くて、イブプロフェンにアセトアミノフェンという別系統の鎮痛剤を重ねている。
アセトアミノフェンは市販薬では『タイレノール』、病院では『カロナール』で知られ、末梢神経に効くアスピリンとは逆に中枢神経に効く。
そのため、痛みを感じるのは止めてくれるけれど、炎症への効果は無いとされている。
そして、比較的「胃に優しい」=「体にも優しい」と誤解されがちだが、肝臓障害は報告されており、毎日お酒を飲むような人には向かない。
また、「鎮痛剤は胃に悪い」というのも誤解で、痛みの伝達物質の一つであるプロスタグランジンは胃を保護する信号も兼ねており、痛みの信号を止めると自動的に胃の保護機能も止まってしまい、これが胃を悪くする原因なのだ。
だから、鎮痛剤を使ったら、どのみち食事は消化の良いものに切り替える必要があるのだ。
特に、ズキズキする偏頭痛は胃の不調と連動しており、胃が悪くなるとセロトニンという物質が脳の周辺の血管を収縮させ、その後に一気に開放されると血液が血管の内壁をこすり、それが頭痛を引き起こす。
つまり、胃が悪くなって偏頭痛が起き、鎮痛剤を使えば痛みは引くものの胃の保護機能は止まるから、普通に食事をしてしまうと胃を悪くして、また偏頭痛にという悪循環に陥る。
お客様にも、偏頭痛は胃の不具合と関係し、緊張型頭痛は肩こりと連動している可能性があることをお話したところ、普段から胃の具合が悪いらしく、頭痛は午後につらいというため水分代謝を改善する『テイラック』(五苓散)も紹介した。
今回は『イブ』をお買い上げいただいたが、やはり本人にヒアリングできるのが一番なので、機会があれば来店してもらいたいところ。